2017年私的ベストBOOKS

あけましておめでとうございます。

2017年はあまり本を読めなかった年でしたが、その中から、特に面白かった10作+αを紹介します。10個+α中三つか四つは、人から紹介されたものなので、ベスト10+αに挙げてもいいのかという指摘があると思いますが、他人から勧められたものであっても、「僕がチョイスした」という点にオリジナリティがあるという姿勢で、ベスト10+αを紹介していきたいと思います!!!(あと、2017年に出版された本ではなく、2017年に読んだ本です。)

 

奪い尽くされ、焼き尽くされ

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ウェルズ・タワー 訳:藤井光

いきなり2010年の本ですが、生涯のベストいくつかに入れても良いと思う短編集で、日常で誰もがあえて目を背けていることばかりを執拗に描き、まったく救いがないながら、それでいてすべての話が優しいカタルシスのある、不思議な読後感の小説集です。枯れたアメリカとでもいうのか、アメリカンドリームなどもうまったく誰も信じていないし、登場人物だれひとりうまくいかず、そこに感傷はまったくなく、全員がイライラして、不機嫌。

特にいいのが、小説になりそうもない題材ばかり扱っていること。そして、笑えて身も蓋もない比喩や表現のかずかず。湖を「ブルージーンズのよう」な色と言ったり、ピンク色した鳥のヒナを描写するときの、「半分火の通った消しゴムが、いつの日か売春婦になりたいという夢を持っていたら、こんな見かけになるだろう」という表現とか、いわゆる日本の私小説のような「文学的な表現」に対するあこがれなど微塵もないところ、すごく好きになりました。

 

 

 

死体展覧会

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ハサン・ブラーシム 訳:藤井光

これは2017年の本。

バグダッド生まれでフィンランド在住の作家による短編集。

ニュースで目にするテロや宗教間の対立、生活の混乱などが、生きたものとして内側から描かれていて、まずその現実?の描写の説得力や凄惨さに度肝を抜かれ、さらに作品の持つファンタジックな部分が、さらにリアリティを強めています。これは決して戦争体験のルポルタージュではなく、寓話的要素の強い小説であるところが重要です。フィクションであることで現実の壮絶さを最も表現できるという、芸術の神髄です。そして最もすごいのが、悲惨な内容を描きながら、ユーモアというか、笑いの姿勢が文体にあらわれていること。やはり悲惨すぎると笑いに繋がってしまうし、本当の悲惨さは笑いにすることで一番伝えることができるのかも。「悲惨さを笑う」という(変換したら「嗤う」になってムカついた)のは、ここに挙げている本すべてに通じるベース音かもしれないです。。。

 

 

 

 

サミュエル・ジョンソンが怒っている

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リディア・デイヴィス 訳:岸本佐知子

56の短編が収められた本。

かといってクソ分厚いわけではなく、平均的な厚さなのですがその理由は、1ページ以下、ときには1行の小説が多くあるからです。とにかく、面白い。あんまり使いたくないですが、シュールな面白さです。リディア・デイヴィスの特徴は、そのスタイル以外には、ドライさにあると思います。事物に対して突き放したような、その距離感が絶妙で、それがまた可笑しさにつながっています。書けば小説になってしまう人なのではないかと思います。文章の笑いの、かなり洗練された例のうちのひとつではないかと・・・好きすぎて賛辞が薄いですが・・・あと!岸本佐知子さんの訳業はまちがいなくこの面白さに一役買っています。ヘンテコな人でないとこれは面白く訳せないと思うので!ちなみにリディア・デイヴィスの本は現時点で4つ邦訳がありますが白水社『ほとんど記憶のない女』はペーパーバック版があってリーズナブルです。すべて岸本さん訳。岸本さんは1970年生まれですがめちゃくちゃSNSやってます。

 

 

カステラ

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パク・ミンギュ 訳:ヒョン・ジェフン 斉藤真理子

韓国の小説家パク・ミンギュの小説集。

ひじょうにポップな語り口で、さらっと心の奥の寂しさみたいなものをストンと突くような、むしょうに切なくなってしまう小説がたくさん収められています。とにかく、うまい。で、これも例によって笑えます。表題作「カステラ」は、大学生の主人公「僕」が、冷蔵庫の中に、「大切なものや害悪を及ぼしうるもの」(父親やマクドナルドやアメリカなども入ってしまう。むろん、すべて害悪を及ぼしうるものだ)をどんどん入れていくという小説。この本の登場人物たちも、やりきれなさにあふれていて、世の中のどうしようもなさにうんざりしきっている、そこを、なんとかすいすいと避けながら、うまく生きて行けたらなあという、すごい王道なことを照れながら、ヘンなやり方でやっている、そういう小説だと思います。

 

 

三美スーパースターズ 最後のファンクラブ

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パク・ミンギュ 訳:斉藤真理子

パク・ミンギュのデビュー長編小説。好きなので二冊入れてしまいました。

三美スーパースターズとは、かつて韓国プロ野球に存在した実在のチーム。史上最弱で解散した野球チームに若き日のじぶんを重ね合わせて、主人公の人生が物語られていきます。この本も、まーーふざけてる。途中から、野球の純粋な・絶頂の・神髄が登場して純粋・絶頂・神髄の三人が討論し始めたり、アフリカの野球チームの顛末にページが割かれたり、普通に大喜利が強い。つくづく、おふざけから世界が見えることは多いと感じます。途中から青春小説の色彩を強めたり、いろんなカラーがごたまぜになったデビュー作らしい小説で、最終的になんかナイーブな感じになってしまうような気もしますが、読んでいるときにはそんなこと気にならず、ぐいぐい。めちゃくちゃ面白かった!アメトーークで紹介されたのでここではあえて書かなかった『ピンポン』も、大傑作です!ガンボコ訳出されてほしい!やくしゅつ!

作者パク・ミンギュ

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 サイコーですね。

 

ティファニーで朝食を

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トルーマン・カポーティ 訳:村上春樹

 ここにきて急にカポーティです。

ティファニーで朝食を』は、高校生のころに読んだときはまったく面白くなく、ふーんこれが名作かと思ってほっぽっといたのですが、あるきっかけがあって読み直して、腰を抜かしました。文章が上手すぎる。いや、上手いとかそういうんでなく、感覚的にすっと入ってきてまったく無駄がなく、卓抜で人を振り向かせる比喩に満ちていて、いちどは文章を書いたことのある身として、途方もない隔たりと畏敬の念を感じたのでした。当時のアメリカで爆発的に受け入れられたのもうなずけます。『ティファニー』が出版されたのは1958年、一般市民の生活はきびしくともまだキラキラしていたアメリカに生きるホリー・ゴライトリーのような人物は、もう小説や映画に登場することはないだろうと思うとさみしいですが、それだけに永遠の輝きを持って何度でもぼくらの前にあらわれてくれるのです。

 

 

結婚式のメンバー

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カーソン・マッカラーズ 訳:村上春樹

カポーティと同時代の作家、カーソン・マッカラーズの中編小説。

アメリカ南部に住む十二歳の少女フランキーが、兄の結婚式に参加したらすべてが変わるという思いから奇矯な行動に出、そして・・・

これは本当に面白かった。本当に。。。

説明したら野暮になってしまうことだらけで、読んでくださいとしか言いようがないが、あの年齢特有のやきもきして、感情が身体の大きさをはるかにはちきれて膨張していたころが鮮明によみがえる、すんんばらしい小説です。春樹の仕事は量・質ともにすごい。。ありがたい。

あと、安い!!!!!これだけの名作が!!!!!!税抜590円!!!!!!!日本も捨てたものではない!!!!!!多少は!!!!!!

イェエエエエエェェェエエエエエエーーーーイ!!!!!!!!!

 

 

ほんとうの中国の話をしよう

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余華(ユイ・ホア) 訳:飯塚容(ゆとり)

世界的ベストセラー『兄弟』の著者が、10のキーワードで現代中国のことを描くエッセイ集。

マイケル・サンデルふうのタイトルから、TEDトーク的な内容を想起してしまったが、実際は小説家の書いたかなり本格的なエッセイ=随筆で、プレゼン感とかパパラッチ的な内容ではぜんぜんなかった。英語版のタイトルは"China in ten words". どっちにしろ、タイトルでじゃっかん損してる気もするが、、ちなみに国内発禁だそう。

キーワードは「人民」「領袖(りょうしゅう)」「読書」「創作」「魯迅」「格差」「革命」「草の根」「山寨(シャンチャイ)」「忽悠(フーヨウ)」。

冒頭の「人民」から、読みごたえが凄いです。翻訳物の醍醐味といっていいでしょう。(翻訳もの、という書き方が好きでないので、翻訳物、と書きました。「もの」ってすごい腹立ちませんか。温泉もの、とか)ぼくは世界のことをなにも知らないのだと、翻訳を読むたびに思いますが、この本はそういった点のデパートです。すべてが新鮮なのですが、なかでもすごいのが「山寨(シャンチャイ)」と「忽悠(フーヨウ)」。「山寨(シャンチャイ)」とはコピー・模倣品のこと。「忽悠(フーヨウ)」とは、揺れ動くこと。どちらも中国語でのみ表現可能なことばですが、どちらも、いま全世界を覆いつしつつある、「本物か、偽物か」ということにかかわっています。中国国内のカオスは、世界の混沌部分を凝集したナンプラーのようなもので、これはいずれ全世界に広がっていくと思います。けっこうまじめな内容に思えますが、例によってこの人もふざけた人なのが文体から伝わってきます。訳の飯塚容(ゆとり)さんも、いい名前ですよね。

 

 

死の鳥

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 ハーラン・エリスン 訳:伊藤典夫

ウルトラヴァイオレンスSFの大家、ハーラン・エリスンの短編集。筒井康隆と同い年。

新作の刊行は、あのひどすぎる作品にタイトルをパクられた、『世界の中心で愛を叫んだけもの』以来、だいたい40年ぶり。

なんたってまず、タイトルが凄いです。「「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった」「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」とか。内容もタイトルにたがわぬブチ壊れっぷり。まったく読みやすくないですが、至極カッコイイので、四の五の言わずに読んでください。『ヒトラーの描いた薔薇』という文庫本も2017年に出た。

 

 

あの素晴らしき七年

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エトガル・ケレット 訳:秋元孝文

いろいろ紹介してきたけど、これが一位かもしれません。

戦時下のイスラエルに暮らす作家によるエッセイ集。

するとどうしても、深刻な現実を重く描いたものを思い浮かべますが、これがまた、あっけらかんと明るいのです。いや、明るいというか、妙な解放感というか、ユーモアがなければ生きていけないという感覚というか、わかりません。でも、その肩の力の抜け方が、爆弾が降ってくる日常が描かれているのに、とても安心できるのです。

表紙の絵は、スマホゲームに関するエッセイにちなんだもの。がんらいあまり文芸の題材にならなかったスマホゲームやSNSの話題をさらっと書いているところにも、新時代の本だなという感じがします。

お姉さんの結婚の話が好きです。

 

騎士団長殺し

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なんというか、円熟の作品でした。上下二巻をたっぷり使った構成で、ベテランでないとここまで引っ張れないよなあという話の展開には余裕が感じられました。いままでの小説のいろいろな要素が入ってきている点は『1Q84』と同じですが、より質素で動きの少ない、そのぶんどっしりした、いい小説だと思いました。「村上春樹における悪」という卒論を書いた身として、言わせていただきますが、この小説は、

 

いい!!!!

 

ゆっくり落ち着いて、休暇にもう一回読みたい小説です。

 

村上朝日堂

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おまけ。

村上春樹を卒論にしておきながら、初期のエッセイには手を付けていませんでしたが、その面白さに今更ビックリ。数十年でいろんなことがあって、春樹という人は変わったなあとしみじみ思います。なぜって、このエッセイ、すごいふざけてて適当だから。安西水丸の絵にもそれが出てるでしょうが。軽いんだけど、文章のうまさはこのときから健在。ひとつひとつの文章の短さもいいですね。

 

おわりに

頼まれもしないのに12個も紹介して疲れましたが、思ったより書いていて面白かったので、気が向いたらまたやろうと思います。後半息切れしたのでつぎも息切れするかどうか見てください。今後も海外小説中心で読んでいくことになると思いますし、日本の若い作家にはほとんど興味がないですが(中原昌也とかをのぞいて。若くないか?)、つぎにはものすごい興味が出てるかもしれません。

じゃあ、また今度。